伝えたいこと 家庭・育児・父親視点

息子の亡骸を抱いた帰り道、花屋の店主がくれたもの

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約6年前、検死を終えた息子を連れて帰る途中のことでした。


あの日、花束をくれた人のこと




約6年前の12月。

私は妻と1歳半の娘を連れて、検死を終えた息子を迎えに病院へ行った。



警察立ち会いのもと、死亡診断書の説明を受ける。



白い部屋。





現実だけが、淡々と進んでいく。





息子は、今にも目を覚ましそうな顔をしていた。





まるで、ただ眠っているだけのようだった。





妻がそっと息子を受け取り、強く抱きしめた。






私は書類にサインをした。






それが、父親としての最後の手続きのようだった。




病棟を出ると、無機質な廊下の音がやけに響いた。





誰も何も話さない。





12月の冷たい空気を


鼻いっぱいに吸い込んだ。





涙がこぼれないよう、空を見上げた。

振り返ると、妻は息子を抱き寄せながら
静かに涙を落としていた。




その姿を見て





私も堪えきれなくなった。




涙を地面に落としながら





私たちは肩を落としながら


トボトボと駐車場へ向かった。





4人で、車に乗った。




走り出した車の中。





ラジオはつけなかった。





エンジン音だけが響く。






助手席で妻が冷たくなった息子を抱いていた。
夫婦でぽろぽろと泣いていた。



理由も言葉もない涙だった。





しばらくして、妻がぽつりと言った。



「…お花、買おう」



ちょうど通りかかった街に花屋を見つけた。



私は黙ってハンドルを切った。



個人でやっているような
昔ながらの店。

私は息子を抱いたまま車で待ち
妻が店に入った。



なかなか妻が戻ってこなかった。


遅いなと思って


ふと店先を見ると
髭を生やした大きな男性と
妻が並んで立っていた。









後から、妻が話してくれた。






妻は言ったらしい。







「葬儀用のお花をください」




店主は尋ねた。





「どなた用ですか?
 お友達のものですか?」




妻は少し沈黙して答えた。

「…息子です」




その瞬間


店員の手が止まったという。




短い沈黙。




そして、何も言わず作業を再開した。




出来上がった花束は




大きなイエローベースの花束だった。



明るくて、やさしい色だった。




店主はそれを渡しながら言った。
「お子様とのことですので明るい色がいいと思います。」



そして涙を指で拭って続けた。


「お代はいりません。
  僕が出しときます。
    気持ちを強く持って。」





そして店を出る妻の背中を
そっと“トン”と押してくれたという。




その話を聞いた瞬間


私は花束と息子を見て

また泣いた。

夫婦で、わんわん声をあげて泣いた。




悲しいのに


何かが流れ出すような


少し救われるような涙だった。






正直に思った。

どんだけカッコいいんだよ、と。



理屈じゃない。
正論でもない。



ただ、他人の痛みに触れたときの
まっすぐな行動。




それだけで
人は救われることがある。






“正義”でも


“思想”でもなく


ただ一瞬の「愛」が


誰かの世界を救うことがある。






あの日から私は


あの瞬間を残す側でありたいと思うようになった。

大げさじゃない。



本気で、そう思っている。

6年経っても、あの日の花の色だけは忘れられない。





だから今日も



私はあの日の続きを、生きている。


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